管理人はだれ！？

2017年4月1日「土曜日」更新の日記

　冷たい雨の中、工事の様子を見に行くと、家の中は廃材と作業する人で通り抜けることもできないほどで、職人さんに差し入れを渡すと、すぐに退散しなければならなかった。あれから何度か専務に連絡したが、ブレーカーの問題は何の応答もないままだった。一軒の小さな家を、店と住まいのふたつの用途に分けて使う可能性があるのだから、ライフラインだけは整理すべきなのにと気を揉んだ。この頃、私のもとには出版された「老朽マンションの奇跡」にまつわるインタビューや撮影の依頼が相次ぎ、思うように時間がとれないまま、吉祥寺のリフォーム済み老朽マンションと、小さな家を行き来する毎日が続いた。家具や道具も入り、すっかりロンドンフラット風になったメソネット式の築35年マンションに訪れた、新聞社、雑誌社の方々は、「ウワオー、これが５００万円のボロボロマンションですか。たった２００万円でこんなに変わるんですか」と、目を見張った。特に巨大タンクのような給湯器が消え、洗濯機置き場やタイルで仕上げた洗面所、トイレなどが収まった水回りコーナーは好評で、入れ替わり立ち替わり中をのぞき、「ここなら住んでみたい。おたくの社員さんが羨ましい」と、心から言って下さる。取材が終わると、インタビュアーが本当は自分の家をもっとこうしたかったと話し始め、住宅談義に花が咲く。住まいの話はエンドレスだ。くだんの本の主人公となった、ゼロゼロ物件に苦しめられた若き男性社員は、暖炉のあるメソネット式のこのマンションに住み始めてすっかり落ち着き、恋の噂も聞こえ始めた。住まいがリフォームによって変わるように、人生もまた住まいで変わるのだと改めて感じた。彼の幸せな暮らしぶりが漂う部屋を隅々まで見ながら、これからはいよいよ、自分の夢のための家を作るんだ。新たな挑戦に向けた山を登ろうと、決意するのだった。取材に来られた方々に、小さな家の話は伏せておいた。リフォームに次ぐリフォームで「家道楽」と思われるのは不本意だし、工事は専務との間にまだまだ解決していない案件もある。この日も上司に同席してもらい、老朽マンションの改造劇に対するインタビューに答えながらも、頭の半分は４台のエアコンとブレーカーをどうするかでいっぱいだった。平日の吉祥寺もすっかり馴染みの風景となった。騒々しい駅前から商店街を歩き、小さな家に向かう道すがら、久々に見る工事の進行に期待を膨らませているのか、上司はよく喋った。

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