管理人はだれ！？

2017年4月8日「土曜日」更新の日記

　考えてみれば、この手の相談は大工の星さんなら朝飯前のようだが、彼は今日も来ていない。「何とか１５０センチ×２００センチのスペースは確保できるでしょう」専務がハシゴの上からそう言った。「それなら僕も寝泊まりできますね」山田君は満足そうだ。部屋として使うためにも照明やコンセント、収納棚は必ず作って欲しいと確認した。専務はそりゃ、当然ですよと、同意する。今日、他の現場に行ってるけど星ならわけないですよと、いつもの大工自慢が始まる。予算を３５０万円で収めるために、今回も大量に使用するフローリング床材は低価格帯のものから選ぶことで合意した。専務が現場に持参したサンプルを見比べる私は、「薄い色は賃貸マンションの床材のようで安っぽいですね」と、つい口を滑らせた。尋ねてもいないのに山田君も、「これではイメージが違いますねえ」と、腕組みをする。気の弱い専務は頭をかきながら「それで、あの、２階の和室以外は全部床を貼り直すんですよね」と、確認してきた。「あと、屋根裏部屋もフローリングでしたっけね」。すでにイメージデザインを見せて説明していた上、契約書にも記載されているのに、なぜ今さらこんなことを聞くのか。ハァーツ、約50平方メートルありますかねえと、専務は電卓を叩き始めた。予算がキツいのだろうか。「別に床材は在庫品でもかまいませんよ。ダークブラウンの色味であれば……」そう言うと、何か思いついたのか専務が顔を上げた。「ご相談なんですが、ちょうどいいのがあるんです。前にキャンセルくらったレストランエ事で取り寄せた床材がまだ残ってるはずです。確かあれ、ナショナルのこげ茶だったかなあ」すると山田君が、一応、サンプル見た方がいいですよと、口を挟む。専務はそりゃ、もちろんお見せしますと言った後、会社に連絡を入れ、「あれ横浜の倉庫に止まったままかい」と、在庫床材の行方を探っている。私は山田君に、コーヒー買ってきてと言い、席を外してもらった。実際、彼が横にいるだけで、交渉がうまく進まない気がした。立ち上がりの時期は現場で一対一で話すのが私の流儀。腹を割って話さなければ工事はうまく行かない。しばらく経って、勢いよく山田君が帰ってくると、専務はホッとしたようで「ナショナル、ナショナルを持ってこないと」とブツブツ言いながら帰っていった。次の日、専務から例の床材は何とか見つかったと報告があった。大工が作業に取りかかれば、床工事は３日間で終わるという。「星さんなら作業も早そうですしね」専務は口ごもったように、ええ、まあ、と言って話を打ち切った。

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