管理人はだれ！？

2017年4月20日「木曜日」更新の日記

　一方の山田君は、同じ歳の息子がいるというヨドバシさんと携帯番号を交換するなど、すつかり馴染んでいた。変わりゆく吉祥寺駅まで歩く道すがら、馴染みの伊勢丹の前がいつになく騒々しいことに気付いた。「ここ、閉店になるんですよ。地元に住む自分としては、何だかしんみりきますね」上司が淋しそうに閉店セールに沸く伊勢丹を前に言った。38年続いた伊勢丹は旗艦店として、吉祥寺の商業を引っ張ってきただけに、大切なものを取り上げられた感じで心に穴があいたようだ。「この不景気に家賃を値上げされたからなのよ」と、商店街のおばちゃんがウワサ話を教えてくれた。「だいたいさ、１００年以上も小売りやってるところと、駅作ったついでにデパートやりましょっていう電鉄系じゃランクが違うのよ。同じ商品でも伊勢丹、三越、高島屋の包装紙にくるまってるものの方が、良く見えるんだから」もっぱら住人の間では、伊勢丹跡に何が入るのかが話題の中心となっていた。それは期待というより、「この街はどうなっていくのだろうか」という、危機感にも似ていた。Ｈ＆Ｍなどのファストファッションの名が挙がったり、コジマなど家電量販店の噂だったり。商店街の中心軸がなくなり、40年余にわたり地元に愛された吉祥寺の顔－駅ビル「吉祥寺ロンロン」も耐震工事に伴うリニューアルのためもうすぐ閉店するとあって、どことなく落ち着かない。画材や手芸品の殿堂ユザワヤも改築にともない、公園口の丸井に一時移転。その丸井もファッションから書店、サロンが混在する雑居ビルと化した今、古き良き吉祥寺の象徴、「吉祥寺ロンロン」への執着は日に日に強くなった。１００円ちょっとで煮付けに使える魚の切り落としを提供してきた鮮魚店など、生鮮店がなくなると思うとさびしさと同時にやりきれなさがこみあげてくる。新しいものへの期待よりも、八百屋、肉屋、魚屋といった生鮮３店がどうなるのか。特に「思い出」という若者にはない価値観にこだわる中高年世代は、気が気ではない様子だった。９月に元ロンロンに全面リニューアルオープンするという「アトレ吉祥寺」を運営する株式会社アトレには、武蔵野市民から「ロンロンを残して」「八百屋さんの仕事はどうなるんだ」など、陳情、抗議の電話が相次いでいるという。たかが生鮮店と思われるだろうが、吉祥寺で打ち合わせやインタビューを行った後、疲れ果てた頭にも声高な呼び込みはしっかり届いた。淋しくなって街を歩けば、吸い寄せられるように、駅ビルロンロンに向かった。「いらっしゃいませー、いらっしゃい、いらっしゃいませー、いらっしゃい」その声に、昨日まであったものが今日もある、住みたい街No.1のブランドにおごることなく、誰が見ているでもないのに、寸暇を惜しまず野菜を並べ、魚をさばき、真面目に働く人がいる、自分も頑張ろうと思えた。ヨドバシ大工や職人にも通じる生真面目さ。一日中声を張り上げて疲れないのか。いや、働くとはこういうことだと教えられた。社会的地位こそないかもしれないが、ただ、声を張り上げ、野菜を売っている人や市場の活気に、こういう人が社会を支えているのだと気付かされた。大手志向でエントリーおたくとなった新卒の就活と対照的な労働者であるロンロンや商店街で働く人の立ち振る舞い、声。こういう人達こそ、吉祥寺の資産なのだ。街は生きている。いつまでも変わらないでほしいと思っても、百貨店の撤退一つで訪れる人の顔ぶれはガラリと変わる。

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