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「アンバランスのバランス」

2017年8月25日「金曜日」更新の日記

2017-08-25の日記のIMAGE
友人のエレナはグラフィックーデザイナーです。一緒に雑誌を作っているので、夜遅くまで、彼女の家で仕事をする機会がよくあります。夜になると、キッチンから「夕食は四人?それとも五人?」と叫ぶ、日那さんのピオートル。彼らは二人の子持ち。つまり、「絵子は、今夜一緒に食べるのか?」という意味合いの質問です。「五人」というエレナの返事に、彼はさっそく五人分の食事を作りだします。エレナとピオートルの食卓には、フランス独特の魅力があります。数世紀も前から使われていそうな、古く大きな木のテーブル。一九六〇年代にデザインされたモダンな形の椅子。そしてコップは、ヌードの女性のレトロな写真つき。お皿は、同じような柄でも形はそれぞれ異なっています。デザイン的にも、時代的にもまったく異なるこれらの品物が、本来ならばアンバランスを生み出すはずなのに、こうして一緒に並べてみると、とてもいい味を出しているのです。 「このアンバランスのバランスが、フランス人独特のセンスのよさだと思うのよ」とエレナ。彼女の家の食器棚を開けてみると、まったく形の違う不揃いなコップの列が見えます形は違っていても、みんな同じ青色なのです。「どこかのお店でそのシリーズを買ったわけではないのよ。ある日、青いコップがいくつか無意識に棚に入っていたのに気がついて、それ以来、同じブルーのコップを見つけると、自然と買うようになったの」彼らの家の中を見渡すと、そういう異質のアイテムが多いのです。アッサンブラージュ(Assemblage)のセンスがとてもいいのです。アッサンブラージュというのは、ワインや現代アート、クチュールの世界でも使われている言葉で、「接合」や「寄せ集め」という意味合いです。 さまざまなジャンルや時代のオブジェを同じ場に共存させる。蚤の市や街角に捨ててあった、異時代のものが、ここで生まれ変わり、新しい意味を持ち、新しい運命を辿り始めるのです。昔から、ここにあったような、そんな優しい感党をかもしだすのよね。ここに集まって、いろんな時代のアイテムが、いろんな「時代」が仲よく、シンプルに生きるの。そういうアッサンブラージュのセンスつて、とてもフランス的だと思うの」とエレナ。 ある晩、彼女は渋い顔をしながらテープルセッティングをしていました。「ねえ、見て、このガラスのコップとフォークとナイフ。〈アビタ〉で高いお金を出して奮発したの。使ってみたら、ほんとうに後悔しちゃった」とエレナ。たしかに、それらの食器は一見デザイン的にはモダンで素敵なのですが、味がないのです。まるで、旬の洋服屋の店頭のマネキンが着飾っているドレスを買って、家で着てみてがっかりするような、そんな感党です。「格好ばかりでなんの魅力もない高い食器より、今まで集めてきた古い食器のほうが断然好きだわ」とエレナ。トレンディーな店で買ってくる商品よりも、ひょんなことから偶然にも集まってきた商品はとてもチャーミングです。焦ることなく、出会ったときにそれを買う、というのも大切です。こうして、偶然によって集められてきた商品は、それぞれ顔は違っていても、当然のごとく。あなたに似ている商品なのです。だからこそ、あなたのインテリアの中で生きているのです。

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